ユーロの暗い影:第一章
ヨーロッパには5月9日、ヨーロッパデイという祝日がある。1950年のその日、フランスの外務大臣が、フランスと 西ドイツが鉄と石炭の生産を共同で行う提案を出した。今のユーロの元となったイベントである。歴史を通し、多くの戦いが繰り広げられたこのユーロ地帯。こ の約定により、この国同士での戦争は物理的に無理な状態となり、ヨーロッパ全体を結ぶ第一歩となった。月日が経つにつれ、この条約は、全ての生産物を含む 貿易条約へと形を変えていった。民主主義が広まり、ヨーロッパの国々は次々とこのグループのメンバーとして加わっていった。お互いに国境は開放され、人に 行動の自由は与えられた。生産物に対する規制は共通のものと化した。ヨーロッパ連合の形がどんどん成り立って行くに連れ、次のステップとして、共用通貨の 導入がうたわれるようになった。良好な点を考えると、効果は明らかであった。両替の必要はなし。貿易に関しては、為替の変動を気にする必要なし。ヨーロッ パ連合にはこれまでになかった連帯感。今までのヨーロッパ市場の効果を振り返り、みながこれを押すのは無理もなかった。しかし、一つのヨーロッパ市場と一 つの通貨、それは全く違う効果を伴うものであった。
今現在、このヨーロッパの調和の強調であったはずのユーロが危うい状況におかれている。リーマンショックで世界の経 済が危機に陥った時、ヨーロッパは他に比べて比較的いい状況におかれている様であった。ヨーロッパの社会主義志向が、人の生活レベルを支えていた。しかし ユーロに関しては、怖い現実が待っていた。ユーロが経済の落とし穴。アイルランドとスペインはこれを思い知らされる事となった。アイルランドは破産寸前、 スペインは失業率20%の劇的デフレ志向。始めからこのような警告は出されていたのは事実。ヨーロッパは共有の通貨を裏づけする機関を設けていなかった。 しかし、ユーロの魅力に唆され、みながこの様な警告に対し、見てみぬふりをした。
国際経済学の世界では、色々な意見が飛びかっている。右よりの経済学者は、金を元にしたシステムを重視する。ヨーロッパの左より政治化はユーロシステムを重視する。アメリカの左より経済学者はフリーに変動する国別の通貨を重視する。
ユーロの背景には、ストレートな狙いがあった。ビジネスがスムーズになる。シミュレーションでは、貿易の面で、大き な経済効果が生まれていた。しかし、今現在ユーロ圏内の貿易は10%~15%程しか延びていない。瑣末な数字ではないが、期待された数字には全く達してい ない。数字はさて置き、これはもちろん良い効果ではあった。しかし、この効果を得るために、各国々が独自の通貨を捨てており、これは、それぞれの経済の柔 軟性を遮る効果をもたらしていた。
例を見てみよう。スペインの現状のように、賃金や物価が、バブルによって劇的に上昇したとしよう。バブル崩壊後、コ ストを下げなければいけない。しかし、これは困難な事である。物価が下がるという保証もなく、賃金をカットするのは厳しい。アイルランドでは二年間の苦し い月日を経てようやく賃金が下がって来たが、スペインとギリシャはまだこれからという所。独自の通貨があったとしたらどうだろう?その様な厳しい流れが必 要となくなる。国の通貨の価値を下げてしまう。これは事実上の賃金のカットと同様な効果をもたらす。
労働者は、この対応に同様な反応を示すのではないか?歴史を振り返るとそうでもない。現状、アイルランドは二年の雇 用不況を経て賃金の5%削減を実行させた。しかし1993年、アイルランドは独自の通過の価値を下げる事により、瞬時に賃金を10%削減した。(他の通貨 での価格を参照した場合)みなが同時に同様のインパクトを受ける。通貨の価値を下げられない場合、だれかが最初に賃金のカットを受けなくてはいけない。だ れもがこの立場におかれたくないため、なかなか動きを起こすのが難しい。
このように、通貨を統一することには悪影響もありえるのだ。しかし歴然とした良効果もあるわけで、どちらを選ぶかは、どの様にして判断すべきなのか?
貿易効果に関しては、効果のレベルは、どれだけビジネスに影響があるかによって左右される。例を見てみよう。アイス ランドの人口は32万人であり、アイスランドは独自の通貨を持っている。それでは、なぜアイスランドの8倍の人口を持つニューヨーク州ブルックリンは、自 分の通貨を持たないのか?これは、ブルックリンがニューヨークの都市の真ん中にあり、財政面で回りのエリアと深い繋がりがあるからである。ブルックリンを 出るたびに、両替をしなくてはいけないなんて、ありえない話だ。要するに、財政面で深い関わりがある国同士は同一された通貨からかなりの経済効果を期待で きるわけである。
逆のケースをみてみよう。通貨を統一してしまうと、各国の柔軟性が失われてしまう。これは、どれだけのインパクトが あるのだろうか?経済が厳しいショックを受けた二つの地域を見てみよう。米国ネバダ州とアイルランドは、文化や地形、歴史をさておき、多くの接点を持って いる。人口数億の小さなマーケットであり、周りの地域との貿易に頼っている。数年前までは非常に栄えており、最近バブルがはじけた。共に14%の失業率を 背負っている。そして、通貨を回りの地域と統一している。アイルランドはユーロ圏内、ネバダはアメリカ圏内。しかしネバダに比べて、アイルランドの財務状 況は飛びぬけて厳しい状況におかれている。
ネバダとアイルランドは税金などの面で同じようなインパクトを受けている。しかし、ネバダの場合、実際にはそこまで も痛くない。ネバダの住民が受ける支援は、年金や国民保険など、ほとんどが州ではなく国が出しているものである。しかしアイルランドは、国であるため、全 てを背負っており、年金や保険をカットしざるを得ない。倒産していく銀行の支援に関しても、ネバダはほんの数パーセントの負担しか持たされない。
違いはもう一つ。月日が経つにつれ、ネバダの雇用問題は、自然と解決されてゆく。雇用先が戻って来ないにしろ、人は、仕事のある他の州へと流れてゆく。アイルランドも同じく、人が出て行くが、歴史的に人の流れが非常に激しいアメリカには比べ物にならないであろう。
ネバダとアイルランドは、通貨共有地域の中で、同じような経済ダメージを受けた。しかし、中期的には、ネバダの方がはるかに明るい見通しをみせている。
このケースはユーロの問題にどの様に結びつくのか。ユーロが提案された際、一つ大きな疑問があった。果たして米ドル と同じ効果をもたらすのか?今明らかになった答えが、残念ながらノーである。通貨を結び付けても、ユーロの国々は財政面で繋がりが少ない。アイルランドで 問題が発生した場合、ドイツはその支援を行わない。他国の問題である。又ユーロ圏内の人々は、自由に仕事を探しに国境を越える権利をもっているが、これは 事実上そこまでも人々に流動性を与えない。連合国という名をもっていても、言ってしまえばみな全く別の国である。言語も文化も違う。自分の国を離れるのは そんなにたやすい事ではない。
この様な警告は、元から数々の経済学者が述べていた。なのになぜユーロのは実在することとなったのか?イギリスで は、当時の財務大臣、ブラウン氏がブレア首相の話をつけ、ユーロ不参加を決断させた。しかし、他のヨーロッパの政治家は、ユーロのロマンに呑まれており、 ユーロの話は急ペースで進んだのである。
Source: http://www.nytimes.com/2011/01/16/magazine/16Europe-t.html