ユーロの暗い影:第二章
1999年の年明け、ユーロが世界市場に姿をみせた。三年間の月日を 経て、各国の通貨が、スムーズにユーロへと姿を変えた。ユーロは世界に広まり、ユーロの債券市場は爆発的に膨らんだ。これに伴い、前まではリスクが高いと 評価されていたユーロ圏内の国々に新たな信頼度が生まれた。この国々の経済にとっては夢のような話。この夢が実は悪夢であったと分かった時点では、取り返 しのつかない状態となっていた。
一番いい例はギリシャである。21世紀に変わるまで、ギリシャの経済状況は、国債の取引に反映されていた。ギリシャ の国債はリスクが高いと評価され、高い金利が付かない限り買い手はなかなかいなかった。しかしユーロが導入されると共に、このリスク評価が消えていった。 ユーロ圏に加わったギリシャは、ヨーロッパ中銀にカバーされ、負債のインフレの心配などない。そういう考えであった。輝かしい新たなユーロのメンバーが破 産するなど、想像すらできない話。
21世紀半ばになると、ヨーロッパ各国が波に乗っていた。ギリシャ、アイルランド、ポルトガル。国債は全てリスクお かまいなしの取引し放題。各国の金利が収束するにつれ、金利が劇的に低くなった国々は、もちろん借金ラッシュへと走った。(この金のほとんどが、ドイツな ど、元から金利の低かった国が貸しており、これが、現在のヨーロッパの抱える負債問題の大きな要因である。)ギリシャでは、政府の借金が大半を締めていた が、アイルランドやスペインなどでは不動産ブームに伴い個人の借金も莫大に増えた。ユーロ導入から10年間、スペインの住宅価格は180%膨らんだ。20 世紀の終わりには国内での需要が少なく経済成長が遅くなっていたドイツなども輸出の波に乗って経済を伸ばしていった。
ユーロの導入は、謳われるべき出来事とみえていた。
そこでバブルがはじけた。
2008年の世界的経済危機の元として、よくアメリカのサブプライム問題があげられるが、ヨーロッパにも同様の責任 があったといえる。アメリカでは、無理やり貸し付けられたとも言える人々が借金しすぎたと同様、ヨーロッパでは架空の経済安定性に基づいた借金が架空の経 済成長を支えていた。両方で、不動産バブルが、借金の不安要素を隠していた。
ヨーロッパでのダメージは、不動産バブルの崩壊から始まった。2007年、スペインとアイルランドの雇用の13%が建設関係が締めていた。建設の需要が消え、雇用率が滑り落ちた。スペイン10%、アイルランド13%。
それは始まりに過ぎなかった。経済危機から世界が巻き戻しの波の乗っていた2009年、ギリシャ、アイルランド、スペイン、ポルトガルとたて続き激しい国の格下げが起こり、金利が劇的に膨らんだ。
なぜこのようなことが起きたのか?
ギリシャの場合は明らかである。政府が財務状況の事実を隠し、その巻き返しをくらった。金利が低かったころ、ギリシャ政府は借金を積み立て、その額を隠した。2009年に、公開されていたものよりはるかに多い負債があることが発覚し、投資家は即座に去っていった。
しかしスペインはどうであろう。数年前まで、スペインにはなんの危険要素もなかった。アイルランドも同じである。こ の激変は何を元に生じたのか。まずはバブルの崩壊に伴いダイレクトの経済の落ち込みがあった。スペインとアイルランドの税金収入の大部分を不動産取引が締 めていた。雇用が落ち込み、失業者が急激に増えた。社会主義国であるこの国々では、社会福祉が整っており、この失業者のケアのコストが莫大に増えた。銀行 の援助のコストもあった。銀行の出金ラッシュを避けるべく、アイルランドでは、政府が銀行の負債を全て背負った。
このような理由をみると、投資資金がこの国々に流れなくなった理由がはっきりとわかる。だが言ってしまえばアメリカ やイギリスも今のスペインと同じレベルの負債を抱えている。なぜユーロ圏の国は違う扱いを受けるのか?もしかすると、なんの違いもなく、ある日突然アメリ カも同じ立場に置かれるかもしれない。
しかし答えは多分簡単なものである。独自の通貨を持たないため、スペインやアイルランドは少しずつデフレで財政を立て直していかなくてはならない。しかも、物価や賃金が下がったところで、負債の額は変わらない。これを見て、投資家が足を引くのは無理もない。
こうなってしまった上で、ヨーロッパはどの様に進んでいくべきなのか?この様な出来事は一度すでに起きている。 1991年、アルゼンチンは通貨を米ドルに結びつけた。独自の通貨を持ちながらのユーロと同じ原理。金利は下がり、投資金は流れ込んできた。しかし、アル ゼンチンはデフレに滑り込み、政府はIMFから緊急ローンをもらって生き延びようとした。だが効果はなく、2002年、アルゼンチンは米ドルとの縁を切っ た。
ヨーロッパでもこの様に、ユーロを捨てる国があらわれるのであろうか?多分そこまでは行かないであろう。ヨーロッパ の国々は、長いデフレ期間を乗り切って少しずつ巻き戻しを図って行くこととなる。ユーロ圏の強い国が、責任をもって、危機におちいっている国々を援助する 必要もある。60年の月日を経てヨーロッパの国々はお互いに近寄っていった。よっとこの様な絆を作り上げた今、本当の連合が姿をみせる必要があるのだ。
Source: http://www.nytimes.com/2011/01/16/magazine/16Europe-t.html